北海道の自治体で、農業法人などに雇われて働く人向けのシェアハウスを運営する動きが出てきた。これまではアパートなど賃貸住宅がない農山村では、法人自ら寮を建設したり、自治体が研修生用施設を運営したりしていたが、宿泊場所がなく採用を断るケースも少なくなかった。自治体が率先して居住問題を解消することで雇用を確保し、移住者が住みやすい地域づくりにつなげる。専門家は「全国に先駆けた取り組み」と評価する。(洲見菜種)
移住・就農へ発展期待
羊蹄山の南に位置し、ユリ根などの生産が盛んな真狩村。50代男性は、村が建てたシェアハウスで暮らしながら、道の駅や農場で働く。「力仕事や草刈りは大変だが、農作業は楽しく、住まいも快適だ」と話す。シェアハウスは単身者向けが8部屋と2LDKの世帯向けが1部屋ある。台所やシャワー、トイレは共用で、利用料金は単身者向けが月額1万5000~1万9000円と格安だ。 男性は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、マレーシアから5月に帰国。日本で住まいがなくホテル暮らしを続ける中で、農業に活路を見いだした。各地で職を探して十数件連絡したが条件が合わず、働き先と住まいを用意してくれた同村でアルバイトするようになった。 農業が基幹産業の同村では、働く人向けの安価な宿泊所がないことが課題で、やむを得ず車内で寝泊まりしている人もいたという。そこで村は、花の生産減少で使用機会が減った研修施設を改修。後志総合振興局のマッチング事業に呼応して、18年4月からシェアハウスとして運営を始めた。2年間で延べ42人が利用するなど、実績を上げている。 管内にニセコ町などのリゾート地を抱える同振興局は、冬にリゾート施設で働く人に夏は農業現場で働いてもらおうと、働き先を紹介している。男性もこの事業を活用した。シェアハウスでは村内で働く人や移住を考える人など幅広く受け入れるが、振興局のマッチングプランで仕事を得た人が優先的に入居できる。 同村の松枝主範参事は「今後はいかに定住してもらうかが課題。地域一体で夏と冬の仕事を確保する仕組みが必要だ」と話す。 洞爺湖の南東岸に面する壮瞥町も、18年4月からシェアハウスを運営する。農家で働く人が安価に住める住居がなかったため、町の施設を改装して造った。これまで9人が利用している。 農業を始めるには多額の投資や農地の取得がハードルとなる中で、町は雇用就農で始めることのリスクの少なさをうたう。町の農家にとっても人手不足解消につながる。町産業振興課は「今後は農業大学校などにPRして、若い人に町に興味を持ってほしい」と話す。
賃貸少ない過疎地人呼び込む材料に
農水省によると、18年の新規就農者5万5810人のうち、法人などに雇われて働く雇用就農者は9820人。4年ぶりに1万人を割り込んだものの、その割合は07年の10%から18年には17・5%と年々増加している。 新規就農に詳しい中央大学の江川章准教授は「雇用就農者向けの住宅確保を自治体が手配するのは珍しい」と指摘。その上で「過疎化が進む地域では一般居住者向けの賃貸住宅の供給が少ない。その影響は雇用就農者にも及ぶ。住まいの確保は、雇用就農者の呼び込みにもつながる動きだ」と説明する。
日本農業新聞
Source : 国内 – Yahoo!ニュース